【待たせるなんてできないよ。】
そのスピードにはついていけない。
分かっているし知っている。
だけどわたしは口に出さない。
「大丈夫、なんでもないよ」
だってそれで待たせるなんて申し訳ないじゃないか。
そもそも、待ってくれるなんて期待しちゃいけない。
……追いかけても待ってくれなかった時のことなんて忘れられたらいいのに。
走っても追いつけなくて、置いて行かれたあの感覚は何年経っても忘れることができない。
もたついて、待たせるのはこわい。
自分はみんなをいくらでも待てるのに、わたしはわたしを許せない。
「……ごめんね」
思っているよりも世界は優しい……はずなんだ。
自分の優しさは、自分に返ってくるだろう。
わたしは、いつになったらわたしに優しくできるんだろう。
今日は誰かの助けになるようなことはできていない。
……じゃあダメだね。
わたしにきっと価値はない。待たせるなんてぜったいにダメだよ。
人の歩幅は違うから、一緒になんて難しい。
誰かと並んで、手を取って、たまに振り返って歩けたらきっとそれは。
「幸せ、だろうなぁ」
まぁ、わたしには関係のない話だけどね。
おわり
【待たせるなんてできないよ】

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