今日も近くで

[作品紹介]
 
羽鳥(はとり)しらこは高校生。
考えることが好きで今日も“もしも”の話を考えていた。

そんな中で最近懐かれた藤城(ふじしろ)ゆみかは今日も距離が近いようでーー……

妄想好きな女の子とパーソナルスペースの狭い女の子のお話。
 
 
【今日も近くで】
〜パーソナルスペースの狭い女の子が今日も迫ってくるので誰か適切な距離を教えてあげてください〜
 
たとえばの話をするならば、どうせなら、壮大な話をしよう。今日は異世界に召喚されるかもしれないし、明日は神様の手違いで宇宙人が隣の家に引っ越してきたりするかもしれない。思考なんて壮大でいいのだ。せっかく自由を許された、自分だけの世界なのだから。

「なになに、今日も考えごと?」

そんな私の自由な世界に、藤城ゆみかは入り込んでくる。それはまぁ、無遠慮に、ズケズケと、奥深くまで。
悲しいことに私は、このまま彼女を無視したところで引くような人間ではないと痛いほどに分かってしまったから、仕方なくそちらを向いた。

「おはよう」
「うん、おはよう! 羽島ちゃん」

私、羽島しらこの名前をニコニコと呼びながら、藤城ゆみかはグイグイと私のテリトリーへと入ってくる。たぶん、こういう人間は「パーソナルスペース」という言葉を知らないのだろう。誰か大人が教えてやってほしい。私には無理そうだから。

「今日も藤城は元気だねぇ」
「いやいや、羽鳥ちゃんのテンションが低すぎるんだって。そんなんじゃ着ぐるみの中で生きていけないよ」

生きないよ。
誰がいつ着ぐるみの中に入ると言ったんだ。

「私はこれからも飛び跳ねる梨を応援し続けるよ」
「……好きなの?」
「いやもう尊敬の域」

なるほど。うん、キラキラした目で見られても「私も」とはならないし着ぐるみの中に入ろうとも思わないから。
このテンションにはきっと何年経っても追いつけはしないだろう。そう考えれば心の距離感はきちんとパーソナルスペースを保てているかもしれない。うん。

「羽鳥ちゃんの今日のラッキー行動は私に優しくすることだったよ」
「なんだラッキー行動って」
「私もたまには優しくされたいなって」
「私はいつでも優しいよ」
「嘘だぁ」

藤城は話が好きなようで。最初話したときのあまりの話のぶっ飛びように、我慢できずツッコみまくっていたらどうやら懐かれてしまったらしい。いや、暗黒でもないし破壊の神でもないけども。だいたいこの学校はいろいろおかしすぎるんだ。
入学式に恋について語る生徒会長、それに飛び蹴りをかます副会長。メリケンサックを持ち歩く子に雨の日に傘を差さずに嬉しそうに濡れる女の子と、友達になってほしいと追いかける女の子……なんで入ったんだろ。

「きっと運命だね⭐︎」
「やかましい⭐︎」

あぁ、また乗ってしまった。

「そこが羽鳥ちゃんの良いところだよ」
「全く嬉しくないんだけど……」

たとえばの話をするなら、簡単なんだけど。この距離感も悪くないかもしれないと考える自分もいるわけで。
もっと優しくしたほうがいいのかななんてらしくもないことを考えてしまう。嫌いではないんだよな、うるさいけど。

「なに?」
「ナンニモ」
「えー気になるよー!」
「あぁもう近い!」

……やっぱり、パーソナルスペースについてはしっかり教えてもらってほしい。
私にはぜったい、無理そうだから。

一つ、二つ、三つ。
距離を詰めていけば行くほどに、段々と笑顔になるところ、可愛いと思う。
どうやらあの子は妄想が好きなようで、人の話はほとんど聞いていない。全く、毛ほどに、これっぽっちも。
だったらもう、その世界に飛び込むしかないだろう。

「なになに、今日も考えごと?」

こっちを向いてよ羽鳥ちゃん。
私は今日も、君と話がしたいんだ。

 
 
 
 
 
 
おわり
 
 
 
 

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