[紹介]
少しだけ無口な後輩が大好きな先輩と
うるさい先輩が苦手な後輩のお話
【君を好きになりました】
寒い冬の始まり。
私はため息をついた。
「先輩」
「わひっ! あ、あはは……」
コソコソしてはいるがまるで隠れられていない。頭も隠せてないしおしりも隠す気が見られない。
私、東堂(とうどう)はじめ はため息をもう一度。そして思った。この人は本当に先輩なのかと。
この先輩、原民(はらたみ)ひなめ は私と接点のない人だった。つい先日までは。
「へへ、見つかっちゃいました……」
「一応に隠れる気はあったんですね」
「かくれんぼは得意だったんだよ?」
「どうせ影が薄いからというオチでしょう」
「何でわかったの?」
ダメだ、この人。
私には苦手なタイプ。正直いっしょに居たくない。ーーなのに。
「好きだよ、はじめちゃん」
「そうですか。はじめちゃん呼びはやめてください」
彼女は私を好きらしい。
先日に初対面の先輩に告白されてからというもの、このやり取りが日課みたいになっていた。
もちろん、応える気はさらさらない。
しかし小動物のような目で追ってくる先輩を邪険に追い払えるほど、私だって鬼じゃないのだ。
「私は好きにならないので早めに諦めてくれると助かります」
「それは無理だなぁ」
……はぁ。まぁ実害はないから構わないけど。
第一、先輩とは部活も学年も違うし私の何をどう好きになったのか。それだけは気になるかな。
「それよりさ、一緒に学校いこう? それはいいんでしょ?」
「……まぁ」
つくづく小動物のような人だ。私とは正反対。
「先輩はなんで私を好きになったんですか?」
「んぇっ? は、恥ずかしいよぉ……」
通学路でコソコソしてる方が恥ずかしいと思うんだけど。ゴニョゴニョ言われても分かんないし。
「まぁあまり興味がないので大丈夫です」
「ドライだなぁ、はじめちゃん」
「だからはじめちゃんはやめてくださいってば」
傍から見れば可愛い方なんだろう。
私は思わないけど。
「待ってよはじめちゃんっ」
だからはじめちゃん呼びはやめてほしい。
もう言うのもめんどくさいから、言わないけどさ。
後ろで何か言ってる先輩を置いて、私は無言で歩き続けた。
☆☆
「懐かれたねー、はじめ」
「他人事だと思ってるでしょ、ほまな」
同じクラスの玉川(たまがわ)ほまな。色恋沙汰に疎かった私に春が来たと勝手に喜び、先輩側に付いている。
「まぁ実際、他人事だし」
「……そうね」
「でも、ちょっとくらい先輩に惹かれたりしない?」
「もし私にそんな感情があったとしても初対面の先輩に告白されたってときめかないでしょ」
「まぁ、たしかに」
数日に渡って関わった中で、あの先輩が私をからかうような人ではないと分かる。なにせ不器用だし。なにより不器用だ。
「どこで私と会ったのか、私のどこを好きになったのか。教えてくれないから分かんないし」
「まぁ、恋は正論じゃ推し量れないんだよ」
テキトーなこと言っちゃって。まぁ実際に他人なわけだから文句もいえないけど、ほまなは面白がってるところもあるから気に入らない。
私と先輩を引き合わせようとする行動にはデコピン1つじゃ物足りない。
「早く諦めてくれないかな」
「まぁはじめ冷たいからねー、割とすぐに飽きられちゃったりして」
「ありがたいことだよ」
どんなに距離を取って、諦めろと啓しても、先輩は私のそばを離れてはくれない。
「ほんと、迷惑なんだ」
私なんか、好きになる理由はないよ。先輩。
☆☆
「好きだよ、はじめちゃん」
「はぁ……」
「む…聞いてる?」
「聞いてます聞いてます。諦めてください」
何度めかなんて数えていないけど、なかなかの回数に到達したんじゃないか。なんでこの人は諦めないんだろう。
「はじめちゃん、今日はなんだか眠そう?」
なんで、私ばかり見てるんだろう。
先輩は、こんなに可愛いのに。
「……先輩はもっと上を見た方がいいですよ」
「へ?」
「私なんか見なくても、もっと素敵な人がいるでしょう」
「……どうしたの?」
どうもしないよ、先輩。お願いだから分かったような顔しないでよ。私はあんたに好かれるほど素敵じゃない。
「年下がいいなら、友達を紹介します。まぁ少ないですけど」
「ねぇ」
「身長が高いのが好みならたくさんいますし、あと」
「ねぇってば!」
うるさい。うるさいよ。
「はじめちゃん、好きだよ」
「私なんか、嫌ってくださいよ」
「それは無理かなぁ」
笑わないで。
優しい笑顔を見せないで。
早く私を好きじゃなくなってよ。じゃないと。
「好きに、なっちゃう……から」
「へへ」
「笑い事じゃない!私みたいな冴えなくて可愛くもない奴と一緒にいたら先輩まで霞んで見えちゃうんですよ!」
あぁもう。
どこからだ、どこから間違えたんだ。
好きにならないと決めたのに。好きになるはずなんかないって思ってたのに。
「はじめちゃんは可愛いよ」
「可愛くない……」
「はじめちゃんは可愛い」
うるさい。可愛いはずがないよ。こんなみっともない私。
「他人が近寄ることを拒否するくせに、急に自信がなくなっちゃうとこ。可愛いね」
「うるさい……!」
「私が離れちゃうのが怖くなった? はじめちゃん」
「うる、さい……」
「どこにも行かないよ、私は。だって、はじめちゃんが好きなんだもん」
いつからか、私の周りに人がいないのは当たり前になっていて。それを寂しいとも苦しいとも思わなくなった。
でも実際は、思わないようにしてただけだったんだ。
「好きだよはじめちゃん。不安なら何回だって言ってあげる」
「……物好きですね、ひなめ先輩」
ゆっくりと抱きしめてくれる先輩の腕の中は暖かくて、少しだけ小さかった。
好きにならないと決めた人。今もまだ、恋しているかなんて分からない。
でもこの胸の温もりが気持ちいいから、きっと答えはもうすぐ分かってしまうだろう。
「前言撤回します、諦めないでください。ひなめ先輩」
「もちろん。好きだよ、はじめちゃん」
その時が来るまでもう少し、この温もりに甘えていよう。
おわり
コメント