【君が眠れないなら】

 
 
明日のことはわからないから。
朝まで待ってみたいと思う。
 
「……あ、水分取らなきゃ」
 
伊佐波(いさなみ)たまきは静かに立って冷蔵庫の方へと向かう。
このまま何もなかったら、何もないでいいんだけど。
 
────PiPiPiPiPi……
「……きた」
 
離れたところにあるスマホから鳴り響く着信音。
画面を見ると、やっぱりあの名前。
 
「……もしもし」
「やっほーたまき、元気してる?」
「してない」
「じゃあ私が元気になる魔法をかけてあげるよ」
 
磯山(いそやま)ひまりは同級生。
夜に眠れないことを相談したあの日から、毎日電話をかけてくるようになった。
 
「ひまり、もう夜遅いよ」
「遅いね」
「眠いんじゃないの?」
「たまきはもう眠れそう?」
「……」
 
質問に質問で返してくるな。
私はいいんだよ、もう慣れたんだから。
 
「ね、たまき 今日はとっておきの話があるの」
「いつもじゃん」
「違うでしょ、昨日はとびきり、その前は最高」
「おめでたいなぁ」
「その方がいいでしょ、幸せならさ」
 
ひまりは幸せそうだ。
そんな幸せなひまりが、私なんかに構ってくれなくてもいいのに。
 
ひまりの幸せを、邪魔していそうな気さえする。
 
「たまき」
「うん?」
「私はたまきと幸せになりたいよ」
「っ……」
「だから、たまきには幸せになってもらわないと困る」
 
優しい声に、息を呑んだ。
なんだよそれ、変なの。
 
「睡眠は大事だからね、寝られないなら私は付き合うよ」
「心強いじゃん」
「でしょ?」
 
いつから眠れないって思ってたんだろ。
でもきっと、今日は寝られるかもしれない。
 
「ねぇ、とっておきの話、たくさん聞かせてよ」
「もちろん」
「寝落ちしていい?」
「子守歌になったげる」
 
ひまりの声を聞きながら、段々と瞼が重たくなっていく。
 
「ひまり」
「んー?」
「ありがとう……大好き」
「……────!!」
 
返事を返される前に通話を切る。
メッセージが飛んでくるから、通知もオフにした。
 
 
「………………はっず」
 
 
やっぱり今日も眠れないかもしれない。
でもまぁいいや。
 
だってすっごく、幸せな気分だから。
 
 

 
おわり
 

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