恋人ができたって、みんなに堂々と言えたらいいのに。
どうしたって優しいだけの世界じゃないから、いえない自分がいる。
「っ……」
「……やめる?」
朝霧(あさぎり)つみきは息が止まる。
恋人である東宮(とうぐう)ほなみが優しすぎるからだ。
付き合ってから、いつも何かにおびえて、キスもろくにできていない。
こんな弱いだけの自分が情けなくなる。
「ごめん、ほなみ」
「いいよ、私もそういうのよくわかんないし」
好きだと思ったから告白して、結ばれたのに。
お互いにふわふわした感情のせいで何も進めない。
「私さ、つみきとはそういうのしなくても平気だよ」
「えっ……」
「ただつみきがつみきで居てくれて、私を好きなんだーって実感できたら、それだけでいいじゃんね」
優しいところが好き。
一緒に居たら落ち着くし、そばに居たいし、居てほしい。
友情と愛情が、いまいちよくわからない。
「ほなみ」
「うん?」
「ほなみから……キス、してくれたりは」
「……私は好きな人には求められたいからなあ」
「い、一回したらまた欲しくなるかもじゃん!」
「どうしたの、無理しなくていいよ」
好きだ、大好き。私が一番近くでほなみのことを幸せにしたい。
くだらない周りの声におびえてる自分を、消し去ってやりたいから。
「キスして、ほなみ」
「っ……」
そのための一歩を、どうか私に。
「……目は閉じてて」
「はい」
「ちょっとだけ顔あげて!」
「はい!」
数秒時間をおいて、唇が触れる感触。
これがキスか、なんて浸る暇もなく離された。
「……早すぎない?」
「うるさい、したにはした」
「ちょっと物足りない」
「うるっさい! 恥ずかしいの!」
真っ紅に染まったほなみの顔。
あぁ、また恋に落ちるなんて変なの。
「好き」
「……私だって好きだし」
「じゃあもう一回……」
「しないってば!」
逃げ出すほなみを追いかける。
あれ? 私いま、ほなみしか見えてない。
「ほなみ!」
世界中で、叫んだってもう気にならない。
「大好きー!!」
「……私もだよばぁか!!」
私たちは私たちだから。
世界で二人だけの、最高の恋をしよう。
おわり

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