この気持ちを終わらせて

佐伯(さえき)あすかは高校一年生。
大学一年生の篠崎(しのざき)あゆむは幼い頃から近くに住むお隣さん。
「ずっと一緒にいたいけど、無理だって知ってるから」

片思いを捨てたい女の子と
片思いを知らない女の子の短いお話。
※このお話はpixivにも投稿しています。
※テスト投稿です。


【この気持ちを終わらせて】

片思いはつまらない。
だって行動しなかったら、この気持ちは伝わらない。
そんなの言えないから、片思いしてんのに。

「あすか、怖い顔してる」
「うっさい、あゆむ」

私、佐伯あすかは高校一年生。
大学一年生の篠崎あゆむとは、小さい頃からの付き合いで。

「素直じゃないなぁ、絵本読んであげないぞ?」
「いらんわ」

お隣さんというものは、なんで当たり前に家に上がってくるんだ。近いんだよばか。
こんな距離感じゃ、妹ぐらいにしか見てもらえない。

もし気持ちを伝えたら、この距離感ですら奪われてしまう。
もしも疎遠になってしまったら、家も近いからきっと周りが黙っていない。
喧嘩をしたのかとか、何があったんだとか、聞かれちゃうんだろうな。
優しいあゆむは、きっと私を庇うだろうから。

こんな想いは、絶対言えない。

「夏も終わったし何かしたいな」
「今うちでマンガ読んでるじゃん」
「そうじゃなくてもっと青春? みたいなの」
「サークルにでも入れば」
「あすかは私と会う時間が減ってもいいの?」

何それ。

「私、友達いない訳じゃないし」
「冷たいなぁ」

言えない想いだけ抱えて、言えばこの関係さえ失われてしまう。
こんなのは恋話にすらならない。

買ってきたお菓子を頬張れば、甘いチョコの味。

「チョコ、好きじゃない」
「美味しいのに」

あゆむと食べると、苦いから嫌いだ。
何を食べても、ずっとこの感情が付きまとう。

「ね、明日お出かけしよう?」
「……いいけど」

こんな私にも、優しいところが嫌。
ワガママな私を、突き放さないところが嫌。

「どこ行くの?」
「遊園地とか」

そんなあゆむから、離れられない。

「今日は遅いから、また連絡するね」
「もう帰る?」
「嬉しそうにすんな」

また明日だなんて、願ってもいないくせに。
今日もまた、ちゃんと”片想い”で終われたんだ。

「あ、また今度あの人帰ってくるから、挨拶してね」
「やだよ、妹じゃあるまいし」
「あすかは家族みたいなもんだよ」

言わなければ、散らない。
この気持ちを隠せたらそれでもう、いいじゃないか。

「……分かった」
「ありがとう」

一気に気持ちが冷えていく。
やっぱり片想いは嫌いだ。

「未来の旦那さんによろしく」
「気が早いなぁ」

伝えないと終わらせてくれなくせに。
何かを期待してしまうなんて、滑稽じゃないか。

「さむ……」

こんな気持ちを「切ない」なんて言葉で。
彩ろうとする自分は、もっと大嫌いだ。

おわり

コメント

タイトルとURLをコピーしました