佐伯(さえき)あすかは高校一年生。
大学一年生の篠崎(しのざき)あゆむは幼い頃から近くに住むお隣さん。
「ずっと一緒にいたいけど、無理だって知ってるから」
片思いを捨てたい女の子と
片思いを知らない女の子の短いお話。
※このお話はpixivにも投稿しています。
※テスト投稿です。
☆
【この気持ちを終わらせて】
片思いはつまらない。
だって行動しなかったら、この気持ちは伝わらない。
そんなの言えないから、片思いしてんのに。
「あすか、怖い顔してる」
「うっさい、あゆむ」
私、佐伯あすかは高校一年生。
大学一年生の篠崎あゆむとは、小さい頃からの付き合いで。
「素直じゃないなぁ、絵本読んであげないぞ?」
「いらんわ」
お隣さんというものは、なんで当たり前に家に上がってくるんだ。近いんだよばか。
こんな距離感じゃ、妹ぐらいにしか見てもらえない。
もし気持ちを伝えたら、この距離感ですら奪われてしまう。
もしも疎遠になってしまったら、家も近いからきっと周りが黙っていない。
喧嘩をしたのかとか、何があったんだとか、聞かれちゃうんだろうな。
優しいあゆむは、きっと私を庇うだろうから。
こんな想いは、絶対言えない。
「夏も終わったし何かしたいな」
「今うちでマンガ読んでるじゃん」
「そうじゃなくてもっと青春? みたいなの」
「サークルにでも入れば」
「あすかは私と会う時間が減ってもいいの?」
何それ。
「私、友達いない訳じゃないし」
「冷たいなぁ」
言えない想いだけ抱えて、言えばこの関係さえ失われてしまう。
こんなのは恋話にすらならない。
買ってきたお菓子を頬張れば、甘いチョコの味。
「チョコ、好きじゃない」
「美味しいのに」
あゆむと食べると、苦いから嫌いだ。
何を食べても、ずっとこの感情が付きまとう。
「ね、明日お出かけしよう?」
「……いいけど」
こんな私にも、優しいところが嫌。
ワガママな私を、突き放さないところが嫌。
「どこ行くの?」
「遊園地とか」
そんなあゆむから、離れられない。
「今日は遅いから、また連絡するね」
「もう帰る?」
「嬉しそうにすんな」
また明日だなんて、願ってもいないくせに。
今日もまた、ちゃんと”片想い”で終われたんだ。
「あ、また今度あの人帰ってくるから、挨拶してね」
「やだよ、妹じゃあるまいし」
「あすかは家族みたいなもんだよ」
言わなければ、散らない。
この気持ちを隠せたらそれでもう、いいじゃないか。
「……分かった」
「ありがとう」
一気に気持ちが冷えていく。
やっぱり片想いは嫌いだ。
「未来の旦那さんによろしく」
「気が早いなぁ」
伝えないと終わらせてくれなくせに。
何かを期待してしまうなんて、滑稽じゃないか。
「さむ……」
こんな気持ちを「切ない」なんて言葉で。
彩ろうとする自分は、もっと大嫌いだ。
おわり
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